稲懸大平

初めの程は、伊勢詣で何人連れなど書き、国所など麗しく記したりけるを、後には打ち戯れゆきて、さまざまの絵様などを、かきたるなん、多く混じり来ぬる。さるはいと浅ましく、あらぬものの形などを描きたり。さるは烏滸がましくて、顕はには、えこそまねばね。ただ思ひやるべし。又、幟の絵のみにもあらず、物の形をことさらにも造り出て、杖の先などにさして、口々に、大口とていみじきことどもを言ひ囃しつつ、或は手打ちならしなどもして、浮き立ちて、若き男はさらにも言はず、老人老女、また物恥しつべき若き女まで、よろづうち忘れて、物苦ほしく、かたはらいたく、世にうちし心とも見えず、万に戯れつゝ、行き交う様よ、あさましなど言ふも愚かなり。